仲裁判断書全文

中央建設工事紛争審査会

平成16年(仲)第1号事件

仲裁判断書

岐阜県岐阜市茜部本郷一丁目63番地の3
申請人 株式会社希望社
同代表者代表取締役 桑原耕司

岐阜県岐阜市領下六丁目46番地
申請人 株式会社丸泰
同代表者代表取締役 伊藤泰洋
岐阜県羽島郡岐南町三宅二丁目221番地
同代理人 矢田幸雄

岐阜県岐阜市今沢町18番地
被申請人 岐阜市
同代表者岐阜市長 細江茂光
岐阜県岐阜市司町38番地酒造会館
弁護士法人小出栗山法律事務所
同代理人弁護士 小出良熙
同代理人弁護士 栗山知

上記当事者間の中央建設工事紛争審査会平成16年(仲)第1号事件について、中央建設工事紛争審査会は、次のとおり仲裁判断をする。

主文

1申請人らの請求を棄却する。

2仲裁手続費用は各自の負担とする

事実及び理由

第1 当事者が求めた仲裁判断

1 申請人ら 被申請人は申請人らに対し、665,280円を支払え。

2 被申請人 申請人らの請求を棄却する。 仲裁に要した費用は申請人らの負担とする。

第2 事案の概要

1 争いのない事実及び証拠上明らかな事実

(1) 申請人らは、希望社・丸泰特定建設工事共同企業体を結成のうえ、平成15年5月28日、被申請人との間で、被申請人を発注者、申請人らを請負者として次の工事請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結した。

(2) 平成15年10月16日、申請人らの現場代理人大島紀久(以下「大島」という。)は、被申請人の監督職員野田文敏(以下「野田」という。)に対し、上記工事のうちスラブ型枠工事の型枠材料にフラットデッキを使用することにつき、承諾を求めた。これは、「工事特記仕様書」(甲第11号証。以下「特記仕様書」という。)「1章 一般共通事項」中「2.標準仕様書」に、「本工事は建築工事共通仕様書(平成13年度版 国土交通省大臣官房官庁営繕部監修)に依る。」とあり、同建築工事共通仕様書(甲第10号証及び乙第5号証。以下「共通仕様書」という。)「6章 コンクリート工事」、「9節 型枠」中「6.9.3材料」の(2)に、型枠のせき板の材料について、「その他の場合は、(b)(2)又は所要の品質を確保できるものとし、監督職員の承諾を受ける。」とあるためである。

(3)野田は、大島に対し、同年11月11日に口頭で「一般階はよいが屋上階と水回りには使用しないように」との旨を返答した。また、同年12月2日付け「協議書」(甲第2号証)をもって、「口頭で現場代理人大島氏に一般階はよいが屋上階はダメ。なお一般階のうち天井コンクリート打放し仕上げ及び2階便所の箇所は使用しないでほしいと図面表示で説明しましたが、協議書で指示を出し直すものとします。」と回答した。

(4)大島は、この回答を不服として、野田に対し、同月8日付け「協議・報告書」(甲第3号証)をもって再協議を求めたが、野田は、同「協議・報告書」をもって、同日付けで「屋上階の使用について再協議と聞きましたが、屋上階は将来スラブのひび割れ、雨漏れに起因する不測の事態も考慮し使用の取止めをお願いしたものです。」と回答した。

(5)その後、申請人らは、被申請人に対し、上記回答の撤回を求めたが、被申請人はこれに応じなかった。このため、平成16年2月20日頃、フラットデッキによる施工の承諾が得られなかった部分について、合板型枠による工事を実施した。

2 争点

(1) 工事請負契約書第1条第3項「特別の定め」の解釈
1. 申請人らの主張

型枠材料に何を使用するかについては、「工事請負契約書」(甲第1号証)第1条第3項で、特別の定めがある場合を除いて請負者が決めるとされている。また、特別の定めがあっても、定めに反しなければ請負者が決めることができる。

2. 被申請人の主張

仮に型枠の選択が施工方法の選択の問題であるといえるとしても、本件では「特別の定め」(共通仕様書6.9.3(a)(2)、特記仕様書19章1))がなされておりこれに拘束される。申請人らは、特別の定めがある場合であっても、その定めに反しなければ請負者が決めることができる旨を主張するが、この主張は、「監督職員の承諾を受ける。」(共通仕様書6.9.3(a)(2))という明文の定めに反するものであり誤りである。

(2) 共通仕様書6.9.3(a)(2)の「所要の品質」の意義
1.申請人らの主張

申請人らが選択したフラットデッキは、共通仕様書6.9.3(a)(2)で定める「所要の品質を確保」できるものである。 ここでいう「所要の品質」とは、雨漏りの発見が遅れるか否か、雨漏りの部分が特定できるか否か、錆が発生するか否か(建物の強度、耐久性、美観、メンテナンスに悪影響があるか否か)の問題ではなく、型枠の強度(共通仕様書6.9.2(b))及びコンクリートの仕上がり(同6.2.5(a)及び(b)(2))の要件が満たされるか否かの限定された問題である。

2.被申請人の主張

ここでいう「所要の品質」とは、型枠自体の品質(共通仕様書6.9.2(b)前段)と当該型枠を使用して施工した成果物の品質(同後段)の両者を含むが、成果物の品質に関して言えば、フラットデッキのように型枠自体が捨て型枠として残るものを使用する場合にあっては、捨て型枠もコンクリートの一部とみなし、共通仕様書6.2.5に定める品質を満たしているだけではなく、共通仕様書6.1.2(c)の「コンクリートは、所要の強度を有し、構造耐力、耐久性、耐火性等に対する有害な欠陥がないこと。」その他の合理的に要求される品質も満たしていなければならない。

(3) 共通仕様書6.9.3(c)の実績資料の提出
1.申請人らの主張

申請人らは、共通仕様書6.9.3(c)に定める実績等の資料を監督職員に提出している。それは、「仮設用フラット床板ハイデッキ設計・施工マニュアル」(甲第14号証の1)であり、「(仮称)北東部コミュニティセンター及び岐阜北消防署三輪出張所建築主体工事型枠支保工計算書S1スラブ部分」(甲第14号証の2)である。

2. 被申請人の主張

申請人らが前記資料を提出していることは認めるが、前記資料は申請人らが使用しようとしたフラットデッキの使用実績を示すものではない。すなわち、共通仕様書6.9.3に定める「実績等の資料」には該当しない。

(4) 普通型枠の使用は契約事項か
1. 申請人らの主張

入札前に提示された「(仮称)北東部コミュニティセンター及び岐阜北消防署三輪出張所建築工事設計内訳書」(乙第2号証。以下「設計内訳書」という。)は、入札者の工事積算業務の参考として設計図書に添付されたものであり、工事請負契約の内容を拘束するものではないことが、その表紙に明記されている。 入札直後に申請人らが提出した「御見積書」(乙第3号証)に「普通型枠」と示されているが、「普通型枠」という用語は「打放型枠」ではないという意味であり、型枠の材料を表すものではない。すなわち、型枠材料が合板であることを限定するものではなく、当然フラットデッキその他の材料のものも含まれる。また、「請負代金内訳書」(乙第4号証)については、もっぱら被申請人の便宜のために作成したものであり、申請人らはその内容について責任を負うものではない。

2. 被申請人の主張

設計内訳書が、直接契約内容とはならないとしても、契約締結前の事情や契約締結後の事情(「御見積書」が作成されたことや、取り立てて質問がなされなかったこと等)を総合して本件請負契約の内容を判断すれば、普通型枠(合板型枠)を使用することを前提として工事が進捗していったことが読み取れる。すなわち、契約締結前後の状況から、本件請負契約は普通型枠(合板型枠)を使用することが合意されていたと合理的に解釈できる。

第3 争点に対する判断

1 工事請負契約書第1条第3項の「特別の定め」の解釈について

工事請負契約書第1条第3項は、「仮設、施工方法その他工事目的物を完成するために必要な一切の手段(以下「施工方法等」という。)については、この約款及び設計図書に特別の定めがある場合を除き、乙がその責任において定める。」と規定している。

本項の規定により、発注者は請負者の期待権を侵すような形で施工方法等を任意に指示することはできないことになる。しかし、原則的に請負者に選択権があるといっても、発注者が技術上、安全上の必要等の合理的な理由により指示しなければならない場合も当然予想される。

そこで、本項は、このような場合に発注者が施工方法等を指定することを認め、「この約款及び設計図書に特別な定めがある場合」を除くとしたものである。

なお、ここに設計図書とは、図面、仕様書、現場説明書及び現場説明に対する質問回答書をいう(工事請負契約書第1条第1項)。

本件請負契約では、特記仕様書1章2.で、「本工事は建築工事共通仕様書(平成13年度版建築工事共通仕様書国土交通省大臣官房官庁営繕部監修)に依る。」とされている。

そして、コンクリート工事の材料に関して規定する共通仕様書6.9.3(a)(2)では、コンクリート打ち放し仕上げ以外の「その他の場合は、(b)(2)又は所要の品質を確保できるものとし、監督職員の承諾を受ける。」としているが、これは工事請負契約書第1条第3項の「特別の定め」に該当する。

そこで、6.9.3(a)(2)で必要とされる「所要の品質」とはいかなる品質を指すのかという条項の解釈が問題となる。これが次の争点2で問われている事項である。

なお、施工方法等とは、工事請負契約書第1条第3項で定義されているように、「仮設、施工方法その他工事目的物を完成するために必要な一切の手段」のことであるが、これには、型枠材料の選択等も含むものと考えられる。また、特記仕様書19章1)では、「本仕様書は工事の大要を述べるも、詳細は設計図及び監督職員の指示により施工するものとする。」と規定されているが、この監督職員の指示は、本件争点との関係では共通仕様書6.9.3(a)(2)で、「監督職員の承諾」という形で具体化されているというべきである。

2 共通仕様書6.9.3(a)(2)の「所要の品質」の意義について

(1)そこで本件の中心的な争点は、共通仕様書6.9.3(a)(2)で言う「所要の品質」は、6.9.2(b)で言う「6.2.5に定める所要の品質」と同じ意味であるのか別の意味を有するのかという点にある。

申請人らは、この問題について、所要の品質の意義を限定的に解して、両者を同義と考えるべきであるとする。これに対し被申請人は、6.2.5(a)及び(b)の規定が要求する、コンクリート部材が所定の位置にあること及び所定の断面寸法であること並びに所定の平たんなコンクリート仕上がりであることの他に、6.1.2(b)及び(c)の規定が要求する、コンクリートが、所定の形状、寸法及び密実な表面状態を有すること並びに所要の強度を有し、構造耐力、耐久性、耐火性等に対する有害な欠陥がないことをいう、とする。

(2) まず規定相互間の関係を概観しておくと、共通仕様書の2章以降の各章において、1節の一般事項は、2節以降の規定と併せて適用されるものであることが明記されている(共通仕様書1.1.1(d)) 。

したがって、これを本件の場合に当てはめると、共通仕様書6章1節の一般事項として規定されている6.1.2の基本要求品質も、2節以降の規定と併せて、施工方法等の解釈に当たっては適用されるものと解される。なお、ここでいう基本要求品質とは、工事目的物の引渡しに際し、施工の各段階における完成状態が有している品質をいい、3章以降の各章の一般事項において、1.使用する材料、2.仕上り状態、3.機能・性能について、発注者としての基本的な要求事項を定めているものをいう。

しかし、建物の仕様の中には、立地条件、用途、施工部位等に応じて、一律に定めることができないものも存在している。そこで、このようなものを「所要の状態」として、請負者が品質計画の中で施工の目標を定め、監督職員の承諾を要することとして、工事目的物の所要の状態についての合意を形成していく構成になっている。本件における「所要の品質」もこのようなものとして位置づけることができよう。これに対して、各章に規定する基本要求品質における「所定」とは、共通仕様書の各節の規定をはじめとした設計図書、法令等により遵守すべき事項として定量的に定まっている仕様をいうものであり、「所要」とは異なった意味を有している。

(3) このような本件請負契約に関する一般的な捉え方を前提として、本件の場合をみると次のように考えることができる。

まず、同じ9節「型枠」の中で、6.9.2(b)が、型枠の一般事項として「6.2.5に定める所要の品質が得られるように設計する。」としながら、一方で6.9.3(a)(2)が、せき板の材料として、特に限定を付さずに「所要の品質を確保できるものとし、監督職員の承諾を受ける。」としていることの意義が問題となる。

これについて、前者は、その前段の「型枠は、作業荷重、コンクリートの自重及び側圧、打ち込み時の振動及び衝撃、水平荷重等の外力に耐え、かつ、」という言葉を受けているのに対し、後者では、その前段の「その他(=コンクリートの打ち放し仕上げの場合以外の場合)の場合は、(b)(2)(=せき板の材料として合板を用いる場合は、「合板の日本農林規格」の「コンクリート型枠用合板の規格」によるB−C)又は」という言葉をそれぞれ受けていることから考えてみることが必要である。

すなわち、前者で「6.2.5に定める」という限定を付しているのは、コンクリートの表面の仕上がり状態以外で型枠に要求される耐久性に関しては、別途その前半部分で具体的に規定されていることから、所要の品質の中身については、コンクリート表面の仕上り状態のみを規定しておけば足りると考えられたからである。

これに対して、後者の6.9.3では、型枠を構成するせき板と支保工(6.9.2(a))のうち、せき板の材料について(1)コンクリート打放し仕上げの場合と(2)その他の場合を区別し、(1)については、表6.2.3のコンクリート表面の仕上がり程度に見合ったものを規定している。そして(2)の場合も、6.9.3(b)(2)で規定される日本農林規格のB―Cは板面の品質に関するものである。このことからすると、これに続く「所要の品質」もこれらと同様に表面の品質に関することのみを指すと考えられなくもない。

しかし、せき板の材料は、本件で問題となっているフラットデッキのように合板以外で、しかもコンクリート打ち放し仕上げ以外など多様な種類があり、これらの材料を用いる場合は、型枠としての性能やこれを用いた成果物の仕上げに対する影響について合わせて調査をする必要がある。したがって、ここにいう「所要の品質」とは、こうした事由を含んだものとして、その役割を負わされていると考える方が合理的である。

もともと6.9.3のような規定の構造になっているのは、せき板は、直接コンクリート面に接するものであるため、コンクリートの仕上り状態と一体のものと捉えるのが一般であり、一方、通常の型枠は、作業後取り外されるものであるため、主に作業時の耐久性のみを考慮すれば足りると考えられたからである。この点は6.9.2(c)で、「型枠は、・・容易に取り外しができ・・」と規定されていることからもわかる。

ところで、前述のようにコンクリートの基本要求品質としては、所要の強度を有し、構造体力、耐久性、耐火性等に対する有害な欠陥がないことが求められている(6.1.2(c))。この「構造耐力、耐久性、耐火性」等は、いうまでもなくコンクリートに要求される重要な性能であることから規定されているものである。

しかるに6.9.3(c)では、「スラブのせき板の材料として、床型枠用鋼製デッキプレートを用いる場合は、床上面が平たんなものとし、実績等の資料を監督職員に提出する。」と規定している。この条項は、6.9.3(a)(2)を補足するものであって、フラットデッキの特性から、監督職員の承諾に当たって実績等の資料を検討材料として提出を求めている。

これは、フラットデッキが、コンクリート工事後も、捨て型枠として、コンクリートと一体で残存するため、その評価は、コンクリート本体に要求されると同様の判断基準によって、その適合性を判定しなければならない関係にあることに基づいている。

以上から、「所要の品質」の意義については、こうしたフラットデッキの特性をも含んだものとして理解する必要があり、その該当性の判断に当たって、コンクリート工事の一般事項である共通仕様書6.9.2も併せてその適用があるというべきである。

3 共通仕様書6.9.3(c)の実績資料の提出について

(1) それでは、本件で具体的に監督職員が承諾を与えなかった点については、どのように考えるべきであろうか。

本件では、被申請人は、フラットデッキの使用範囲を限定し、「一般階はよいが、屋上階はダメ、なお一般階のうち天井コンクリート打ち放し仕上げ及び2階便所の箇所は使用しないでほしい」(甲第2号証)としている。

そして被申請人は、不承諾の理由について、「トイレ床スラブからの水漏れ、最上階スラブからの水漏れがあった場合、フラットデッキではその補修が困難になること、また、結露によりフラットデッキから錆汁が発生する恐れがあるので、その部位において、建物の維持管理上、品質が確保されないこと」を挙げている(甲第5号証)。

ところでフラットデッキに関しては、床型枠用鋼製デッキプレート(フラットデッキ)設計施工指針・同解説(社団法人公共建築協会)(乙第1号証)等によって、「aフラットデッキは建物が存続する期間、敷設されている永久型枠であるから、長期間にわたると錆が発生することもあるので、適切な対策を考える必要がある。b工事完了後、天井等で隠れてしまう部分のフラットデッキは、その防錆処理の方法について特に検討を要する。cフラットデッキを使用した場合、結露を生じやすい部位は屋根スラブ、最下階の床スラブ(二重スラブの上部のスラブ)などである。」と指摘され、仕様に当たって留意すべき点とされている。

(2) そこで、本件でこの問題を考えるについては、承諾の判断基準をどのように捉えるか、監督職員にどの程度裁量権が与えられているか、を検討する必要がある。

まず、判断基準については、フラットデッキが永久型枠であることから、具体的に工事を実施する場所との関係で、本件請負工事で使用することが、構造耐力、耐久性、耐火性の点で問題がないかどうかを検討する必要がある。

承諾の諾否を検討する資料として、本件で申請人らから被申請人に対して提出されているのは、当初使用を予定していた「仮設用フラット床板ハイデッキ設計・施工マニュアル」(甲第14号証の1)と「(仮称)北東部コミュニティセンター及び岐阜北消防署三輪出張所建築主体工事型枠支保工計算書S1スラブ部分」(甲第14号証の2)である。

また、「実績」というのは、当該工事個所との関係で使用することが、構造耐力、耐久性、耐火性の点で、問題がないことを具体的に裏付けるに足る性能やこれを用いた成果物の仕上げに対する影響を示す具体的データを指すものと考えられる。特にフラットデッキは、型枠工事終了後も取り外せないのであるから、事前の慎重なチェックが重要な意味を持つものと考えざるを得ない。

(3) それでは、本件において監督職員が承諾しなかったことはどのように評価されるべきか。承諾するか否かは、提出された資料に対して、当然に評価や判断を行った上で結論を決めるべきことになるが、十分な資料が提出されているのに承諾しなければ、裁量権の逸脱が問題となる。本件では、その範囲を超えていると言えるかどうかが問われている。

この点について申請人らは、被申請人に対し、フラットデッキは、メッキしてあるから錆びない、断熱材を吹き付けるので結露が発生することもない、と説明したとする。しかし、「実績等の資料を監督職員に提出する」とあるのは、請負者が発注者の承諾を得られるように自主的に資料を提出することを原則としていると考えられる。したがって、こうした口頭説明を裏付ける具体的な資料の提出を要するというべきである。

4 普通型枠の使用は契約事項かについて

被申請人は、契約締結前後の状況から、本件請負契約は普通型枠(合板型枠)を使用することが合意されていたと解釈できると主張する。

確かに、入札に際して提出された設計内訳書(乙第2号証 5枚目)、入札(平成15年5月19日)直後の見積書(乙第3号証 NO13)、同年7月3日付(実際の提出は同年9月であるという。)で提出された請負代金内訳書(乙第4号証 NO10)では、いずれも普通合板型枠とされており、フラットデッキの使用は予定されていなかったことがうかがえる。

特記仕様書6章7.型枠工事で、「コンクリート打ち放し仕上げに使用する合板せき板は共仕表6.2.3とする。ただし、種別は特記による。」とされているのも、当事者間でフラットデッキの使用が予定されていなかったことから説明することができ、規定がないからといって被申請人がその使用を制限する必要がないと考えていたことにはならない。

もっとも、これは普通型枠の使用は契約事項になっていて、予定の変更が全くできないということを示すものではない。なぜならば、契約事項の範囲については、約款及び設計図書を示すことが工事請負契約書第1条に明記されており、前記各書類は、これには直接含まれないことが明らかだからである。

したがって、この問題については、契約事項ではないことになるが、申請人らによって契約成立後に当初の予定が変更されたことは否定できないものである。そして、フラットデッキの使用は、共通仕様書に規定された監督職員の承諾を要する場合に当たる。また、変更に至る本件の具体的な経緯からすると、なぜそのような変更の必要があるのかについての積極的な説明が求められるところであろう。

また、防錆性や断熱性について、本件審理の過程に至って、具体的な主張がなされているが、施工過程では十分な議論が行われなかったことがうかがえる。この点については、前記経過や規定の構造からすると、請負人が変更を求める合理的理由があることについての実績資料を示しての説明責任を負担していると考えるのが公平であろう。

そうすると、本件で、請負人は、施工過程で、具体的な使用実績等、実際上の不安を除去するに足りる十分な合理的根拠をもって、フラットデッキの使用の必要性を明らかにしたとまで言うことはできず、監督職員が承諾しなかったことを裁量権の逸脱であるとか不当であると評価することはできない。

以上からすると、もともとフラットデッキを使用することは設計図書にはなかったところ、監督職員が承諾しなかったことをもって、工事請負契約書第19条の工事代金の追加的な支払いを要する設計図書の変更の場合には当たらず、申請人らの請求を認めることはできない。

第4 結論

よって、主文第1項のとおり判断し、仲裁手続費用については建設業法第25条の21第1項の規定により主文第2項のとおり判断する。

この事件の仲裁地は東京都であり、仲裁判断をするための口頭審理その他の必要な調査は平成16年12月15日に終了した。

平成17年2月8日

中央建設工事紛争審査会

仲裁委員 中村 芳彦
仲裁委員 石塚 義高
仲裁委員 吉野 洋一