当社代表桑原によるコラム「遊自耕」は、隔月発行の建築情報誌「飛翔」誌上にて連載しています。飛翔の送付をご希望の方は、飛翔送付申込フォームよりお申込下さい。(送付無料)

遊自耕94号

改正建築基準法は、世紀の大悪法

建築主や建築利用者の多大な負担増

6月20日、改正建築基準法が施行されました。この改正法は、耐震偽装事件の再発防止のための緊急措置として、国交省官僚が中心となって作られたものですが、業界をはじめ多くの関係者の意見を聞かずにまとめられ、理解不十分な国会議員たちによってできあがってしまったものです。そのため、施行前に危惧されたとおり、社会に大混乱を招いています。

建築工事を行うには、建築計画(設計図書)について特定行政庁(知事や市長)または民間確認検査機関の確認を受け、確認済証の交付を受けなければなりません。

改正法は、この確認済証交付までの審査手続きをこれまでより厳格・複雑にすることで、偽装防止を図ろうとするものです。一定規模以上の建築物は構造の二重チェックを行う、確認申請時の提出書類を増やす、申請書類間の不整合に対して修正を認めず申請のやり直しを求める、といったことです。

これにより、確認審査に要する期間がこれまでより長く定められました。のみならず、申請のやり直しになるようなことを避けるために、申請書提出前の事前審査を何度も受けなければならなくなりました。

その結果、確認済証の交付が著しく遅れ、工事着工も遅れているのです。国交省の発表によれば、8月の住宅着工戸数は前年度比43.3%のマイナスとのこと。予定した時期に建物が完成しないことが明らかになり、すでに、多くの建築主や建築利用者が多大な迷惑を被り、法外の時間と予定外の費用負担を強いられています。

会社経営を直撃

当社は、6月20日前後からの4ヶ月の間に、9件の確認申請業務を行ってきましたが、確認済証の交付を受けたものは1件しかありません。

設計はとっくに終わっているのに、その案件のために社員は時間を費やしている。何をしているのだろうか? こんな疑問を持った私は、10月13日にある案件の事前審査に同行しました。この案件の事前審査は今回で4回目で、図面相互の不整合の調整、作図意図の確認、行政指導による修正等に1ヶ月以上かかっていたようです。

この事前審査で指摘された事項の修正を行えば正式に申請が受理されるとのことだったので、申請後確認済証の交付までどれくらいかかるのか尋ねてみました。すると、改正法でも審査期間が35日とされている案件なのに、3ヶ月くらいかかるでしょうとの返答。審査機関にも見通しが立たないのです。

今年度の当社の完工高(工事の売上高)は35%ほどダウンする見込み、利益のダウンはそれ以上でしょう。工事に着手できず収入が得られないのに、確認に必要がないと思われる馬鹿げた図面・書類・資料の作成や、役所にとって都合のよい作図法の要求に対応するための業務に社員を当て、賃金を払い続けているからです。

このような状況は、当社に限らずほとんどすべての建築関連企業に言えることでしょう。そして、建築関連企業の経営悪化や住宅着工数の激減等は景気の後退につながり、ひいては国家の財政にも大きな影響を及ぼすものでしょう。

国は根本的な対策を

これまでも国は耐震偽装事件に関して誤った対応をしてきましたが、今回の建築基準法改正はその最たるものであります。多くの実務者が防止効果を疑問視する改正内容を定め、具体的な審査基準が不明確なまま、また社会に対して改正内容の周知徹底を図らないまま、改正法施行に至っています。なにより、建築士に認められている設計業務に対して過剰・不当に干渉を加える改正内容は、全く許しがたいものです。

しかし、このような混乱した事態に際しても、国交省はまたもや審査制度の運用を柔軟にすることで対応しようとしており、厳格にした制度そのものの見直しはしないと言っています。

こんなことを書いているそばからまた、国の無責任な対策が出されました。建築着工の激減で資金繰り難に陥った建築関連の中小企業に特別な融資を行うというもののようですが、以前に行われた耐震偽装マンション住民への建て替え事業の支援策と同様、まやかしの対応という他ありません。また、この問題に関する他の政策同様、財政赤字を縮減するための行政改革に逆行するものです。

左右を問わずすべての政党・党派に、根本的な対応を行うよう求めずにはいられません。

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