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耐震強度偽装という重大事件が発覚して早くも4ヶ月が経過しました。この事件につきましては、国会・国土交通省をはじめとした各関係機関や業界団体等により、その事実の解明調査が行われるとともに、建築関係法令改正を含む諸対策が論じられています。

これに対して当社代表取締役の桑原耕司が、「建築制度の改革提案」として意見をまとめ発表いたしました。

「建築制度の改革提案」をご覧になり、ぜひご意見やご批判等をお寄せください。

「良い建築・安い建築」を実現するための、建築制度改革の提案
〜耐震強度偽装事件を踏まえて〜

1.はじめに

 私は、清水建設株式会社で構造設計業務に6年、施工管理業務に22年従事した後、株式会社希望社を設立し、一級建築士事務所として17年、総合建設会社として7年の間、設計者、施工技術者、そして企業経営者として建築というものに携わってきました。

 そして、この約45年の体験を通して、現在の建築に関するいくつかの制度が「良い建築・安い建築」を実現する妨げになっていると、強く感じてきました。

 そんな中発生したのが、昨年11月の耐震強度偽装事件です。

 この事件では、何十棟もの建築物で耐震強度偽装が行なわれ見逃されてきたことの原因や背景について、すでにさまざまな立場から多くの意見が出されていますが、私は、その中でも特に「建築確認」という制度そのものに極めて重要な問題があると考えています。

 この建築確認制度の問題点について、これまでも私は折にふれて述べてきましたが、図らずもこの事件によってその問題の一面が明らかになったと感じています。

 一方で、事件発生後、各種関係団体等から偽装防止のための提言がなされ、国交省によってさまざまな対策が立てられようとしています。

 この対策の内容についてもさまざまな方向が見受けられますが、それらのなかには「建築」というものの多様な側面を理解していない不適切なもの、つまり、国民の“良い建築・安い建築”の実現をますます妨げるものがあるように思われます。

 そこで、この事件を踏まえて、今一度“建築の技術の現状はどうなっているのか”を考え、“建築に関して誰にどのような権限と責任があるのか”“建築について、どのような制約が加えられるべきであり、加えられるべきでないか”“今後どのような制度が必要か”ということについて、“建築発注者が良い建築・安い建築を実現するために”という観点から述べてみたいと思います。

2.「建築」の制度化とその問題点

(1)建築技術の高度化・専門化

 歴史を紐解くと、時代が下るにつれ建物の規模はどんどん大きくなり、技術的に極めて高度で複雑なものになってきたことがわかります。建築件数も飛躍的に増え続け、狭い国土に数多くの多様な建物が建てられるようになりました。

 このような社会の変化にしたがって建築には多くの者が携わるようになり、各技術が専門分化していきました。特に、明治になって西洋建築の技術が導入され主要建築物の主流になると同時に、「設計」と「施工」が明確に分離されます。そして現在では、その「設計」という作業もさらに「意匠設計」「構造設計」「設備設計」という3つに大別され、それぞれの専門技術者でなければできないような内容になりました。

 今回問題となった「構造設計」について言えば、それ自体相当高度な専門技術であり、例えばある構造設計書の内容に問題(法の基準に適合しない部分)があるかどうか、偽装がなされているか否かということは、構造の専門技術者であっても一見してわかるものではなく、それを判断するには相当の手間・時間を要します。

 ましてや、一人の設計者が設計の全ての分野について把握したり判断したりすることは、現実的に不可能だといわざるを得ません。一級建築士という資格を持っていることは、ごく基本的な事項を内容とした資格取得試験に合格したということにすぎず、実務として経験している以外の分野については、ほとんど判断できないのです。

(2)建築に対する制限制度

 第2次大戦後まもなく、急激な建築需要の増大という背景の中で、建築というものに対して公的な制限がいくつも加えられました。

  「設計」に関しては、1950年に建築基準法と建築士法が制定され、A.設計内容(建築物の敷地、構造、設備)に関する基準・制限が設けられるとともに、B.建築士の資格を定めて建築物の規模・用途等に応じて設計をすることができる者を制限し、さらにC.一定規模・用途の建物を建てるにあたっては、建築計画(設計)が建築基準関係規定に適合するものであることについて、建築主事という公の機関に確認を求め、確認済証の交付を受けなければならない という制度が作られました。

 また「施工」については、1949年の建設業法によりD.建設業者を許可制とする とともに、建築基準法でE.建築物の規模・用途に応じて建築士が「工事監理(工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認すること)」をすること を義務付け、F.建築主事による工事完了の検査を受けなければならない こととされました。 

 なお、その後、G.特定行政庁(県・市など建築主事を置く行政単位)の指定する工事については中間検査を義務付ける という制度が加わりました。

 また、この「確認」や「検査」は、建築主事だけでなく、国交省大臣の指定を受けた者(民間の確認検査機関)によっても行なうことができるようになりました。

(3)公的制限制度の疲弊

 先に述べた制度のうち建築確認制度()は、民間の設計者の設計に関する知識・技術レベルは高いものではなく、建築士の資格を持った者の設計であっても行政の側でチェックしておいたほうが良い という法制定当時の状況に基づいて作られたものです。

 また同様に、工事監理制度()は当時の建設業者の技術力や意識に対する不信感に基づいて、建築士が「監理者」として建設業者の施工をチェックする制度であり、完了検査制度()や中間検査制度()はさらに行政によってチェックする制度です。

 しかし、制度制定後長い年月が経過し、その間に建築技術は飛躍的な発展を遂げると同時に、建築件数も莫大なものになりました。そして、建設業者(総合建設会社だけでなく、専門工事会社やメーカーも含む)の知識・情報・技術力が建築士のそれを上回ってしまい、建築士による施工のチェック(工事監理)は極めて形式的なものになってしまいました。(建物の品質を本当に管理するためには「配筋」「コンクリート強度」などさまざまな検査が必要ですが、実際の検査業務は建設業者の手で行なわれ、監理者は建設業者が作成した報告書に判を押すというのが現状です。また、建設業者の作成する「施工図」と設計図が整合されているか確認することも重要ですが、その業務内容や責任が法に明記されているわけでもなく、チェックが十分に行なわれているとはいえません。)

 また、建築主事の行なう建築確認や中間・完了検査についても、設計図書や建物に対する完全な把握やチェックは、技術的にそして物理的(体制的)に不可能な状況です。

 民間確認検査機関の制度は、この建築主事の要員不足等への対応策としてできたものですが、確認や検査の処理能力向上には貢献しているものの、その確認や検査の内容は技術的に完全なチェックと言えるものではありません。民間確認検査機関の行なう確認検査業務の内容は、特定行政庁の行なう内容と何ら変わらないものだからです。

 現在行なわれている建築確認や検査は、一定の手順に従い限られた内容について行なわれているに過ぎず、今回のような偽装を見抜けるような内容のものではないのです。

3.建築確認・検査制度の改革

(1)法的位置付けの明確化

 “現在の建築確認や検査は、その対象とする設計図書や建物の合法性(安全性)を完全にチェックするものでも、できるものでもない。にもかかわらず、世間(一般の建築発注者)はそのような認識を持っていない。”ということが、今回の事件によって明らかになりました。(マンション販売会社社長が、建築確認済証を「(合法性の)お墨付き」と主張したことに象徴されています。)

 そして、このような誤った認識は、建築確認・検査制度についての建築基準法の規定や扱いがあいまいで、特定行政庁や民間確認検査機関が、できないチェックをできるように世間に思わせ、本来負いようの無い責任を負っているようなイメージを与えていることによるものです。

 そこでまず、建築基準法の条文を改正し、“建築確認や検査を経て建てられた建物の安全性等について、確認・検査の実施者はその責任を一切負わない”ことを明確にする必要があります。

 これに対して、行政に確認や検査の責任をしっかり負ってもらうべきだという全く反対の考え方があります。

 しかし、今回の偽装事件で問題になったホテルやマンションの建築工事は、自動車メーカーや食品メーカーが車や食料品を製造することと同じ経済行為です。そして仮に、ある自動車部品の設計に問題があり、あるいはある食品工場の一製造過程で異物が混入して、その結果人体に害を与える可能性がある製品が作られ販売されてしまったとしても、その責任を行政に求めるのはナンセンスというものです。

 (もちろん、車や食品の製造に対して、行政が全く関与していないはずはありません。それぞれのメーカーの監督官庁が行なうさまざまな確認や検査の上に製品は作られているでしょう。)

 他の多くの製品と比べて建築物だけが特別扱いをされるというのは、おかしな話です。

 他の製品と違うのは、一つ一つの建築がすべて違う条件(地盤・環境等)のもとに一軒ずつ違った形で建てられるということだけで、それに伴って、消費者である建築主が個別に直接行政の確認や検査を受けなければならないということに過ぎません。

 ただ、建築確認や完了検査というものが、特定行政庁の担当者や、実際に建築主に代わって確認や検査の申請業務を行なう設計者によって、「建築工事を許可し、建築物の使用を許可するという行為」のように扱われている現状があり、それによって不明確な法律の規定が曲解され、行政に権限と責任があるように思われているだけなのです。

 このような「建築確認や完了検査は建築工事の許可や建物の使用許可である」という意識や扱いをなくすためにも、これらの制度の性格と責任を明確にしておく必要があると思います。

(2)確認・検査内容の縮小

 今回の偽装事件を受けて、特定行政庁や民間確認検査機関の検査職員を増やす、構造専門家を配置する、これらとは別の機関や専門家による二重審査をする、より信頼性の高い計算プログラムにする、建築確認の審査期間を延長するなどの方法で、より厳重なチェック制度を導入すべきという意見が大きくなっています。

 しかし、これら厳重なチェックを義務化することには、大いに問題があります。

 まず、厳重なチェックのためにはこれまで以上の検査費用と時間を要するものと思われますが、これはすなわち建物を安く早く建てたいという建築発注者の要望と相反するものです。

 また、特定行政庁の審査体制を拡充させることは、多額の予算を必要とするものであり、国民全体の税負担を増大させます。民間確認検査機関等にその役割を負わせるとしても、行政がそれら機関を管理監督するための費用は不可欠であり、大差はありません。

 そして最も重要なことは、審査の組織や仕組みをいくら強固に構築しても、巧妙な偽装などに対して完全なチェックは不可能であり、結局形骸化するだけではないかということです。

 むしろ私は、現在「建築基準関係規定」全般とされている建築確認・完了検査の対象事項を、そのうちの「集団規定」(「都市計画に関係する規定」わかりやすく言うと、「建築物をどこに、どれくらいの高さで、どれくらいの大きさで、どんな形なら建ててもいいのかを決めたもの」)および「単体規定(個々の建築物が備えていなければならない安全確保のための技術的基準を定めたもの)のうちの汚物処理性能、耐火建築物・準耐火建築物の義務付け、屋根不燃化区域、非常用進入口、非常用昇降機、敷地内通路(避難・消火)に関するもの」に限定するべきではないかと思います。

 また、中間検査については制度そのものを廃止すべきだと思います。

 建築確認・完了検査は、本来権限と責任を持つ建築士や建設業者の業務に対して、行政が念のためチェックする仕組み、いわば公共サービス制度に過ぎません。であるならば、その対象を、制度ができた55年前のものから、現在の社会の流れにあわせたものに変えるのが合理的ではないでしょうか。

 現在の社会の流れとは、国家や地方公共団体の財政の困窮状況に基づく行財政改革、すなわち公の規制をできる限りなくして民間や国民の判断や活動に委ねる方向性です。行政によるチェックを厳重にすることがこの方向と真っ向から対立するものであるのはいうまでもありませんが、より積極的にチェックの対象を縮小・限定することが必要なのではないかと思います。

私が提案する対象範囲は、建築の公共性から考えても必要十分のものであり、また、現在の行政の技術的・体制的な状況から考えて現実的な内容と量であると思います。

 (なお私は、行政によるチェックを縮小すべきだということを提言しているだけですので、建築士や建設業者を信頼できない個々の建築主が、自らの費用と時間をかけて、より厳重なチェックを民間の専門機関等に依頼することを否定するものではありません。

4.元請設計者の責任

(1)元請設計者の責任の明確化

 ここまで私は、建築確認や完了検査を経て建てられた建物の安全性について特定行政庁や民間検査機関に責任はなく、それら確認や検査の対象範囲を縮小する提案をしてきました。いいかえると、建築発注者に対する設計の責任は建築士に求め、施工の責任は建設業者に求めるべきであるということです。

 さて、施工という業務が元請工事会社のもとに数多くの下請工事会社や建材メーカー等が集まってなされているのと同様に、設計業務も通常は一建築士ではすることができず意匠・構造・設備の各専門家(それぞれ意匠設計者・構造設計者・設備設計者と呼ぶ)の協同作業によって成り立っていることはすでに述べたところですが、施工業務を担当する多くの当事者の関係や責任が建設業法で定められているのに比べ、設計業務についてはそれにあたる条文や法律(“設計業法”というべきもの)はありません。

 つまり、(建築士法に建築士個人の業務や建築士事務所についての規定はありますが、)意匠・構造・設備の各設計者が互いに関係をもって一つの設計を行うという前提にもとづいた規定はほとんどなく、建築主(設計委託者)に対する責任が必ずしも明確になっていないのです。

 この3者の関係は現実には対等ではありません。通常は、建築士の資格を持った意匠設計者を有する建築士事務所が建築主から設計業務全体を受託し、そのうちの構造・設備に関する部分をそれぞれの専門家に委託することが多く、建築主から見れば意匠設計者は元請設計者、構造・設備設計者は下請設計者ということができます。

 私が主張したいのは、このような実態に基づいて法令が整備されるべきであり、とりわけ元請設計者(元請建築士事務所)の責任−構造・設備の部分を含めた設計の全てについての責任を負うべきであること−を明確にすべきであるということです。

 それにより、元請設計者(元請建築士事務所)の責任はきわめて重大なものであるということを、設計者にも建築主にも十分認識させる必要があると思います。

 今回の偽装事件では、本来責任のない民間確認検査機関や特定行政庁の責任問題がクローズアップされたのに比べて、元請建築士事務所の責任については(責任がないということではないのですが)あまり問題にされませんでした。

 元請設計者の責任は、本来はもっと注目されるべき問題であったと思われますが、今回の事件では建設会社が元請建築士事務所を兼ねていたり、その経営の実態が建設会社や建築コンサルタント会社の一部のようであったりしたことなどから、議論の中心にされなかったようです。

 なお、現在言われている偽装防止策のひとつとして、構造設計や設備設計を意匠設計とは別の専門設計者に直接受注させる、設計図書等に担当した構造設計者や設備設計者の記名捺印を求める、などという提案があります。

 意匠・構造・設備の各設計業務はそれぞれ専門的なものですが、これらが互いに緊密な関係を持って一つの設計が成り立つのであり、この3分野を調整し統一させる役割を持った存在がなければ、良い建築・安い建築はできません。したがって、構造設計や設備設計を意匠設計とは別の専門設計者に直接受注させるという方向は誤りです。

 また、構造設計や設備設計の実務担当者に記名捺印させることは、各担当者の責任意識の向上に資することはあっても、建築主に対する直接の(設計業務委託契約上の)責任を負わせるものではなく、あまり意味がないと思われます。むしろ、元請設計者の責任をあいまいにしてしまいかねないのではないでしょうか。

 (構造設計や設備設計の実務担当者は、建築士の資格を持ちその者の責任において行なった業務については建築士法上の責任を負うことになりますが、下請として行なった業務については「その者の責任において行なった業務」とは言えないでしょう。また、下請として行なうのであれば、建築士の資格を持っている必要もありません。)

(2)元請設計者に対する罰則・処分の強化

 元請設計者の責任を明確にする具体策の一つとして、違法建築物の設計をした元請設計者に対する罰則・処分を強化し、その適用を厳格に行なうことがあげられます。

 現在の法律では、建築基準法・建築士法に反する行為に対する罰則は、最高でも1年以下の懲役又は50万円以下の罰金となっていますが、これらを大幅に強化する必要があるでしょう。

 また、建築士の免許取消、建築士事務所の登録取消等の処分を、より厳格に実施することも重要です。

 なお、違法建築物の設計によって建築主に損害を与えた場合の損害賠償の実効性を担保するために、建築士事務所に設計賠償保険への加入を義務付けるべきだ、また、その場合には国費の投入が必要だ、などという議論があります。

 しかしこれらは、「行政による設計のチェックの強化」で述べたのと同じ理由で、良い建築・安い建築の実現に反するものだと思います。(建築士事務所に設計賠償保険への加入を義務付けることが、設計料を高くする要因になることは明らかです。)

 万一の場合の保証を考えるならば、建築主が自己負担で保険に加入するか、高い設計料を払ってでも設計賠償保険に加入している建築士事務所に設計を依頼することで対応できるのではないでしょうか。

5.設計改善活動の促進

(1)工事監理制度の改革

 先に述べましたように、建築基準法では「建築主は『建築士の資格を持つ工事監理者』を置かないで工事をしてはならない」と定められ、建築士法では「工事監理とは、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認すること」とされています。

 「設計図と異なる工事が(建設業者によって誤ってもしくは故意に)なされることを防ぐ」という意味においては、この工事監理制度は有意義なものですが、問題は、多くの設計者(工事監理者)や建設会社にとって、そして建築主にとっても、これらの規定がそれ以上の意味を持ってしまっていることです。

 すなわち、これらの規定は「一度なされた設計は、施工段階で変えてはならない」というように曲解され、「とにかく設計図どおり造ることが良いことだ」という価値観を形成してしまっているのです。

 しかし、設計図というものは、設計者の限られた経験と能力、設計料、設計期間などといった条件の下に作成されたものであり、建築主が求める機能・品質・経済性等の観点から見ればさまざまな欠陥(無駄・過剰・不足)を含んでいます。ですから、良い建築・安い建築を実現するためには、施工段階においてもその欠陥を発見し改善していくことがとても重要になります。

 このような見地に立つと、上記のような工事監理制度に対する誤った認識が、この施工段階での設計改善を阻むものになってしまっているといわざるを得ないのです。設計変更(改善)がなされることを嫌う工事監理者(ほとんどの場合、その設計をした設計者)にとって都合が良いばかりでなく、施工技術者に「設計内容には何の問題意識も持たず(持ってはならず)、とにかくその通りに作ればよい」というスタンスを取らせているのです。

 そこで、まず、建築士法の文言を、このような誤った認識が生まれないようなものに整備改正する必要があると思います。

 そして、現在の建築士の有する情報力や能力の実態を直視し、工事監理者に求める確認行為の対象範囲を「設計図書に記された機能が空間構成されているか、デザインコンセプトが維持されているか」ということに限定して、その他の品質管理は総合建設会社の責任に委ねることにすべきではないかと思います。

その上で、工事監理業務の一つとして「施工段階で行なわれる設計改善提案に対して技術的判断を行ない、必要な設計図書の変更等を行うこと」を加えるのです。

(2)設計改善活動の活性化

 設計改善の一番の担い手は、その設計をした設計者ではなく、それぞれの専門分野において豊富な経験・情報・技術を持つ施工技術者(総合建設会社だけでなく、専門工事会社や建材メーカーの技術者を含む)です。

 彼らの設計改善に対する意識を高め、その能力を活用するための最も現実的な方法は、設計改善提案による成果(品質・コストの改善)を何らかの基準で評価し、改善提案者にインセンティブを与えることでしょう。

 現在、公共工事のほんの一部でではありますが、入札段階で入札参加者に設計改善提案を求め、それを落札者決定の一要素とするという制度が実施されています。国や地方公共団体はこの方向を拡大させ、施工段階でも建設業者に設計改善提案を積極的に求め、提案活動に対する評価や金銭的メリットなどを与えるべきです。

 また、民間工事についても、建築に関わる有識者、各種団体、企業等により改善提案に対する評価制度の概要や雛形が提示され、設計改善活動の促進が図られることが望まれます。

 今回の偽装事件で、「建物を施工した建設業者は偽装された設計について何の疑問も持たなかったのか」という声がありました。

事実としては、偽装が巧妙でそう簡単に疑問を抱かせる内容ではなかったようですが、もし私がここで提唱するような設計改善があたりまえになされる状況であったならば、建築工事に関わる数多くの技術者のうちの一人や二人は設計図書を深く検討し、疑問を掘り下げて、偽装を見抜くことができたかもしれません。

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